giovedì 30 giugno 2011

RACCONTI IN GIAPPONESE

赤いくつ

ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen


あるところに、ちいさい女の子がいました。その子はとてもきれいなかわいらしい子でしたけれども、貧乏だったので、夏のうちははだしであるかなければならず、冬はあつぼったい木のくつをはきました。ですから、その女の子のかわいらしい足のこう)は、すっかり赤くなって、いかにもいじらしく見えました。
村のなかほどに、年よりのくつ屋のおかみさんが住んでいました。そのおかみさんはせっせと赤いらしゃの古切れをぬって、ちいさなくつを、一足こしらえて くれていました。このくつはずいぶんかっこうのわるいものでしたが、心のこもった品で、その女の子にやることになっていました。その女の子の名はカレンと いいました。
カレンは、おっかさんのお葬式そうしき)の日に、そのくつをもらって、はじめてそれをはいてみました。赤いくつは、たしかにおとむらいにはふさわしくないものでしたが、ほかに、くつといってなかったので、素足すあし)の上にそれをはいて、粗末なかん)おけのうしろからついていきました。
そのとき、年とったかっぷくのいいお年よりのおく)さまをのせた、古風な大馬車が、そこを通りかかりました。この奥さまは、むすめの様子をみると、かわいそうになって、
「よくめんどうをみてやりとうございます。どうか、この子を下さいませんか。」と、ぼう)さんにこういってみました。
こんなことになったのも、赤いくつのおかげだと、カレンはおもいました。ところが、その奥さまは、これはひどいくつだといって、焼きすてさせてしまいました。そのかわりカレンは、小ざっぱりと、見ぐるしくない着物を着せられて、本を読んだり、物を)ったりすることを教えられました。人びとは、カレンのことを、かわいらしい女の子だといいました。カレンの鏡は、
「あなたはかわいらしいどころではありません。ほんとうにお美しくっていらっしゃいます。」と、いいました。
あるとき女王さまが、王女さまをつれてこの国をご旅行になりました。人びとは、お城のほうへむれを作ってあつまりました。そのなかに、カレンもまじって いました。王女さまは美しい白い着物を着て、窓のところにあらわれて、みんなにご自分の姿が見えるようになさいました。王女さまはまだわかいので、裳裾もすそ)もひかず、金のかんむり)も かぶっていませんでしたが、目のさめるような赤いモロッコ革のくつをはいていました。そのくつはたしかにくつ屋のお上さんが、カレンにこしらえてくれたも のより、はるかにきれいなきれいなものでした。世界じゅうさがしたって、この赤いくつにくらべられるものがありましょうか。
さて、カレンは堅信礼けんしんれい)をうける 年頃になりました。新しい着物ができたので、ついでに新しいくつまでこしらえてもらって、はくことになりました。町のお金持のくつ屋が、じぶんの家のしご とべやで、カレンのかわいらしい足の寸法をとりました。そこには、美しいくつだの、ぴかぴか光る長ぐつだのがはいった、大きなガラス)りのはこ)が 並んでいました。そのへやはたいへんきれいでしたが、あのお年よりの奥さまは、よく目が見えなかったので、それをいっこういいともおもいませんでした。い ろいろとくつが並んでいるなかに、あの王女さまがはいていたのとそっくりの赤いくつがありました。なんという美しいくつでしたろう。くつ屋さんは、これは ある伯爵はくしゃく)のお子さんのためにこしらえたのですが、足に合わなかったのですといいました。
「これはきっと、エナメルがわ)だね。まあ、よく光ってること。」と、お年よりはいいました。
「ええ。ほんとうに、よく光っておりますこと。」と、カレンはこたえました。そのくつはカレンの足に合ったので、買うことになりました。けれどもお年より は、そのくつが赤かったとは知りませんでした。というのは、もし赤いということがわかったなら、カレンがそのくつをはいて、堅信礼けんしんれい)を受けに行くことを許さなかったはずでした。でも、カレンは、その赤いくつをはいて、堅信礼をうけにいきました。
たれもかれもが、カレンの足もとに目をつけました。そして、カレンがお寺のしきいをまたいで、唱歌所の入口へ進んでいったとき、墓石の上の古いぞう)が、 かたそうなカラーをつけて、長い黒い着物を着たむかしの坊さんや、坊さんの奥さんたちの像までも、じっと目をすえて、カレンの赤いくつを見つめているよう な気がしました。それからカレンは、坊さんがカレンのあたまの上に手をのせて、神聖な洗礼のことや、神さまとひとつになること、これからは一人前のキリス ト信者として身をたもたなければならないことなどを、話してきかせても、自分のくつのことばかり考えていました。やがて、オルガンがおごそかに鳴って、こ どもたちは、わかいうつくしい声で、さんび歌をうたいました。唱歌組をさしずする年とった人も、いっしょにうたいました。けれどもカレンは、やはりじぶん の赤いくつのことばかり考えていました。
おひるすぎになって、お年よりの奥さまは、カレンのはいていたくつが赤かった話を、ほうぼうでききました。そこで、そんなことをするのはいやなことで、 れいぎにそむいたことだ。これからお寺へいくときは、古くとも、かならず黒いくつをはいていかなくてはならない、と申しわたしました。
その次の日曜は、堅信礼のあと、はじめての聖餐式せいさんしき)の ある日でした。カレンははじめ黒いくつを見て、それから赤いくつを見ました。――さて、もういちど赤いくつを見なおした上、とうとうそれをはいてしまいま した。その日はうららかに晴れていました。カレンとお年よりの奥さまとは、麦畑のなかの小道を通っていきました。そこはかなりほこりっぽい道でした。
お寺の戸口のところに、めずらしいながいひげをはやした年よりの兵隊が、松葉杖まつばづえ)に すがって立っていました。そのひげは白いというより赤いほうで、この老兵はほとんど、あたまが地面につかないばかりにおじぎをして、お年よりの奥さまに、 どうぞくつのほこりを払わせて下さいとたのみました。そしてカレンも、やはりおなじに、じぶんのちいさい足をさし出しました。
「はて、ずいぶんきれいなダンスぐつですわい。踊るとき、ぴったりと足についていますように。」と、老兵はいって、カレンのくつの底を、手でぴたぴたたたきました。
奥さまは、老兵にお金を恵んで、カレンをつれて、お寺のなかへはいってしまいました。
お寺のなかでは、たれもかれもいっせいに、カレンの赤いくつに目をつけました。そこにならんだのこらずの像も、みんなその赤いくつを見ました。カレンは聖壇せいだん)の前にひざまずいて、金のさかずきをくちびるにもっていくときも、ただもう自分の赤いくつのことばかり考えていました。赤いくつがさかずきの上にうかんでいるような気がしました。それで、さんび歌をうたうことも忘れていれば、しゅ)のお祈をとなえることも忘れていました。
やがて人びとは、お寺から出てきました。そしてお年よりの奥さまは、自分の馬車にのりました。カレンも、つづいて足をもちあげました。すると老兵はまた、
「はて、ずいぶんきれいなダンスぐつですわい。」と、いいました。
すると、ふしぎなことに、いくらそうしまいとしても、カレンはふた足三足、踊の足をふみ出さずにはいられませんでした。するとつづいて足がひとりで、ど んどん踊りつづけていきました。カレンはまるでくつのしたいままになっているようでした。カレンはお寺の角のところを、ぐるぐる踊りまわりました。いくら ふんばってみても、そうしないわけにはいかなかったのです。そこで御者がおっかけて行って、カレンをつかまえなければなりませんでした。そしてカレンをだ きかかえて、馬車のなかへいれましたが、足はあいかわらず踊りつづけていたので、カレンはやさしい奥さまの足を、いやというほどけりつけました。やっとの ことで、みんなはカレンのくつをぬがせました。それで、カレンの足は、ようやくおとなしくなりました。
内へかえると、そのくつは、戸棚にしまいこまれてしまいました。けれどもカレンはそのくつが見たくてたまりませんでした。
さて、そのうち、お年よりの奥さまは、たいそう重い病気にかかって、みんなの話によると、もう二どとおき上がれまいということでした。たれかがそのそばについて看病かんびょう)して世話してあげなければなりませんでした。このことは、たれよりもまずカレンがしなければならないつとめでした。けれどもその日は、その町で大舞踏会ぶとうかい)が ひらかれることになっていて、カレンはそれによばれていました。カレンは、もう助からないらしい奥さまを見ました。そして赤いくつをながめました。ながめ たところで、べつだんわるいことはあるまいとかんがえました。――すると、こんどは、赤いくつをはきました。それもまあわるいこともないわけでした。―― ところが、それをはくと、カレンは舞踏会ぶとうかい)にいきました。そして踊りだしたのです。
ところで、カレンが右の方へ行こうとすると、くつは左の方へ踊り出しました。段段だんだん)を のぼって、げんかんへ上がろうとすると、くつはあべこべに段段をおりて、下のほうへ踊り出し、それから往来に来て、町の門から外へ出てしまいました。その あいだ、カレンは踊りつづけずにはいられませんでした。そして踊りながら、暗い森のなかへずんずんはいっていきました。
すると、上の木立こだち)のあいだに、なにか光ったものが見えたので、カレンはそれをお月さまではないかとおもいました。けれども、それは赤いひげをはやしたれいの老兵で、うなずきながら、
「はて、ずいぶんきれいなダンスぐつですわい。」と、いいました。
そこでカレンはびっくりして、赤いくつをぬぎすてようとおもいました。けれどもくつはしっかりとカレンの足にくっついていました。カレンはくつ下を引き ちぎりました。しかし、それでもくつはぴったりと、足にくっついていました。そしてカレンは踊りました。畑の上だろうが、原っぱの中だろうが、雨が降ろう が、日が照ろうが、よるといわず、ひるといわず、いやでもおうでも、踊って踊って踊りつづけなければなりませんでした。けれども、よるなどは、ずいぶん、 こわい思いをしました。
カレンはがらんとした墓地ぼち)のなかへ、踊りながらはいっていきました。そこでは死んだ人は踊りませんでした。なにかもっとおもしろいことを、死んだ人たちは知っていたのです。カレンは、にがよもぎが生えている、貧乏人のおはか)に、 腰をかけようとしました。けれどカレンは、おちつくこともできなければ、休むこともできませんでした。そしてカレンは、戸のあいているお寺の入口のほうへ と踊りながらいったとき、ひとりの天使がそこに立っているのをみました。その天使は白い長い着物を着て、肩から足までもとどくつばさをはやしていて、顔付 きはまじめに、いかめしく、手にははばの広いぴかぴか光る剣を持っていました。
「いつまでも、お前は踊らなくてはならぬ。」と、天使はいいました。「赤いくつをはいて、踊っておれ。お前が青じろくなって冷たくなるまで、お前のからだがしなびきって、骸骨がいこつ)になってしまうまで踊っておれ。お前はこうまんな、いばったこどもらが住んでいる家を一けん)、一軒と踊りまわらねばならん。それはこどもらがお前の居ることを知って、きみわるがるように、お前はその家の戸を叩かなくてはならないのだ。それ、お前は踊らなくてはならんぞ。踊るのだぞ――。」
「かんにんしてください。」と、カレンはさけびました。
けれども、そのまに、くつがどんどん門のところから、往来や小道を通って、畑の方へ動き出していってしまったものですから、カレンは、天使がなんと返事をしたか、聞くことができませんでした。そして、あくまで踊って踊っていなければなりませんでした。
ある朝、カレンはよく見おぼえている、一軒の家のかど)ぐ ちを踊りながら通りすぎました。するとうちのなかでさんび歌をうたうのが聞こえて、花で飾られたひつぎが、中からはこび出されました。それで、カレンは、 じぶんをかわいがってくれたお年よりの奥さまがなくなったことを知りました。そして、じぶんがみんなからすてられて、神さまの天使からはのろいをうけてい ることを、しみじみおもいました。
カレンはそれでもやはり踊りました。いやおうなしに踊りました。まっくらな闇の夜も踊っていなければなりませんでした。くつはカレンを、いばらも切株の 上も、かまわず引っぱりまわしましたので、カレンはからだや手足をひっかかれて、血を出してしまいました。カレンはとうとうあれ野を横ぎって、そこにぽつ んとひとつ立っている、小さな家のほうへ踊っていきました。その家には首切役人くびきりやくにん)が住んでいることを、カレンは知っていました。そこで、カレンはまどのガラス板を指でたたいて、
「出て来て下さい。――出て来て下さい。――踊っていなければならないので、わたしは中へはいることはできないのです。」と、いいました。
すると、首切役人はいいました。
「お前は、たぶんわたしがなんであるか、知らないのだろう。わたしは、おのでわるい人間の首を切りおとす役人だ。そら、わたしのおのは、あんなに鳴っているではないか。」
「わたし、首を切ってしまってはいやですよ。」と、カレンはいいました。「そうすると、わたしは罪を悔い改めることができなくなりますからね。けれども、この赤いくつといっしょに、わたしの足を切ってしまってくださいな。」
そこでカレンは、すっかり罪をざんげしました。すると首斬役人は、赤いくつをはいたカレンの足を切ってしまいました。でもくつはちいさな足といっしょに、畑を越えて奥ぶかい森のなかへ踊っていってしまいました。
それから、首切役人は、松葉杖といっしょに、一ついの木のつぎ足を、カレンのためにこしらえてやって、罪人ざいにん)がいつもうたうさんび歌を、カレンにおしえました。そこで、カレンは、おのをつかった役人の手にせっぷんすると、あれ野を横ぎって、そこを出ていきました.
(さあ、わたしは十分、赤いくつのおかげで、苦しみを受けてしまったわ。これからみなさんに見てもらうように、お寺へいってみましょう。)
こうカレンはこころにおもって、お寺の入口のほうへいそぎましたが、そこにいきついたとき、赤いくつが目の前でおどっていました。カレンは、びっくりして引っ返してしまいました。
まる一週間というもの、カレンは悲しくて、悲しくて、いじらしい涙を流して、なんどもなんども泣きつづけました。けれども日曜日になったとき、
(こんどこそわたしは、ずいぶん苦しみもしたし、たたかいもしてきました。もうわたしもお寺にすわって、あたまをたかく上げて、すこしも恥じるところのない人たちと、おなじぐらいただしい人になったとおもうわ。)
こうおもいおもい、カレンは勇気を出していってみました。けれども墓地の門にもまだはいらないうちに、カレンはじぶんの目の前を踊っていく赤いくつを見たので、つくづくこわくなって、心のそこからしみじみ悔いをかんじました。
そこでカレンは、坊さんのうちにいって、どうぞ女中に使って下さいとたのみました。そして、なまけずにいっしょうけんめい、はたらけるだけはたらきますといいました。お給金きゅうきん)な どはいただこうとおもいません。ただ、心のただしい人びととひとつ屋根の下でくらさせていただきたいのです。こういうので、坊さんの奥さまは、カレンをか わいそうにおもってつかうことにしました。そしてカレンはたいそうよく働いて、考えぶかくもなりました。夕方になって、坊さんが高い声で聖書をよみます と、カレンはしずかにすわって、じっと耳をかたむけていました。こどもたちは、みんなとてもカレンが好きでした。けれども、こどもたちが着物や、身のまわ りのことや、王さまのように美しくなりたいなどといいあっているとき、カレンは、ただ首を横にふっていました。
次の日曜日に、人びとはうちつれてお寺にいきました。そして、カレンも、いっしょにいかないかとさそわれました。けれどもカレンは、目にいっぱい涙をた めて、悲しそうに松葉杖をじっとみつめていました。そこで、人びとは神さまのお声をきくために出かけましたが、カレンは、ひとりかなしく自分のせまいへや にはいっていきました。そのへやは、カレンのベットと一きゃく)のいすとが、やっとはいるだけの広さしかありませんでした。そこにカレンは、さんび歌の本を持っていすにすわりました。そして信心ぶかい心もちで、それを読んでいますと、風につれて、お寺でひくオルガンの)が聞こえてきました。カレンは涙でぬれた顔をあげて、
「ああ、神さま、わたくしをお救いくださいまし。」と、いいました。
そのとき、お日さまはいかにもうららかにかがやきわたりました。そしてカレンがあの晩お寺の戸口のところで見た天使とおなじ天使が、白い着物を着て、カ レンの目の前に立ちました。けれどもこんどは鋭い剣のかわりに、ばらの花のいっぱいさいたみごとな緑の枝を持っていました。天使がそれで天井にさわります と、天井は高く高く上へのぼって行って、さわられたところは、どこものこらず金の星がきらきらかがやきだしました。天使はつぎにぐるりの壁にさわりまし た。すると壁はだんだん大きく大きくよこにひろがっていきました。そしてカレンの目に、鳴っているオルガンがみえました。むかしの坊さんたちやその奥さま たちの古いぞう)も見えました。信者のひとた ちは、飾りたてたいすについて、さんび歌の本を見てうたっていました。お寺ごとそっくり、このせまいへやのなかにいるかわいそうな女の子のところへ動いて 来たのでございます。それとも、カレンのへやが、そのままお寺へもっていかれたのでしょうか。――カレンは、坊さんのうちの人たちといっしょの席について いました。そしてちょうどさんび歌をうたいおわって顔をあげたとき、この人たちはうなずいて、
「カレン、よくまあ、ここへきましたね。」といいました。
「これも神さまのお恵みでございます。」とカレンはいいました。
そこで、オルガンは、鳴りわたり、こどもたちの合唱の声は、やさしく、かわいらしくひびきました。うららかなお日さまの光が、窓からあたたかく流れこん で、カレンのすわっているお寺のいすを照らしました。けれどもカレンのこころはあんまりお日さまの光であふれて、たいらぎとよろこびであふれて、そのため はりさけてしまいました。カレンのたましいは、お日さまの光にのって、神さまの所へとんでいきました。そしてもうそこではたれもあの赤いくつのことをたず ねるものはありませんでした。
















FAIRY TALES OF HANS CHRISTIAN ANDERSEN - THE EMPEROR'S NEW SUIT           



アンデルセン童話集 - はだかの王さま

                      

        

  MANY, many years ago lived an emperor, who thought so much of new clothes that he spent all his money in order to obtain them; his only ambition was to be always well dressed. He did not care for his soldiers, and the theatre did not amuse him; the only thing, in fact, he thought anything of was to drive out and show a new suit of clothes. He had a coat for every hour of the day; and as one would say of a king "He is in his cabinet," so one could say of him, "The emperor is in his dressing-room."                   

 むかしむかし、とある国のとある城に王さまが住んでいました。王さまはぴっかぴかの新しい服が大好きで、服を買うことばかりにお金を使っていました。王さまののぞむことといったら、いつもきれいな服を着て、みんなにいいなぁと言われることでした。戦いなんてきらいだし、おしばいだって面白くありません。だって、服を着られればそれでいいんですから。新しい服だったらなおさらです。一時間ごとに服を着がえて、みんなに見せびらかすのでした。ふつう、めしつかいに王さまはどこにいるのですか、と聞くと、「王さまは会議室にいらっしゃいます。」と言うものですが、ここの王さまはちがいます。「王さまは衣装(いしょう)部屋にいらっしゃいます。」と言うのです。
             
           The great city where he resided was very gay; every day many strangers from all parts of the globe arrived. One day two swindlers came to this city; they made people believe that they were weavers, and declared they could manufacture the finest cloth to be imagined. Their colours and patterns, they said, were not only exceptionally beautiful, but the clothes made of their material possessed the wonderful quality of being invisible to any man who was unfit for his office or unpardonably stupid.            
 城のまわりには町が広がっていました。とても大きな町で、いつも活気に満ちていました。世界中のあちこちから知らない人が毎日、おおぜいやって来ます。ある日、二人のさぎ師が町にやって来ました。二人は人々に、自分は布織(ぬのお)り職人(しょくにん)だとウソをつきました。それも世界でいちばんの布が作れると言いはり、人々に信じこませてしまいました。「とてもきれいな色合いともようをしているのだけれど、この布はとくべつなのです。」とさぎ師は言います。「自分にふさわしくない仕事をしている人と、バカな人にはとうめいで見えない布なのです。」その話を聞いた人々はたいそうおどろきました。たいへんなうわさになって、たちまちこのめずらしい布の話は王さまの耳にも入りました。
             
           "That must be wonderful cloth," thought the emperor. "If I were to be dressed in a suit made of this cloth I should be able to find out which men in my empire were unfit for their places, and I could distinguish the clever from the stupid. I must have this cloth woven for me without delay." And he gave a large sum of money to the swindlers, in advance, that they should set to work without any loss of time. They set up two looms, and pretended to be very hard at work, but they did nothing whatever on the looms. They asked for the finest silk and the most precious gold-cloth; all they got they did away with, and worked at the empty looms till late at night.              
 「そんな布があるのか。わくわくするわい。」と、服が大好きな王さまは思いました。「もしわしがその布でできた服を着れば、けらいの中からやく立たずの人間や、バカな人間が見つけられるだろう。それで服が見えるかしこいものばかり集めれば、この国ももっとにぎやかになるにちがいない。さっそくこの布で服を作らせよう。」王さまはお金をたくさん用意し、さぎ師にわたしました。このお金ですぐにでも服を作ってくれ、とたのみました。さぎ師はよろこんで引き受けました。部屋にはた織り機を二台ならべて、すぐに仕事にとりかかりました。でも、はた織り機には何もありませんでした。糸もありません。それでも、さぎ師はいっしょうけんめい布を織っていました。いいえ、ちがうのです。ほんとうは布なんてどこにもなくて、からのはた織り機で織るふりをしているだけなのです。ときどき、材料がなくなったみたいにいちばん値段の高い絹(きぬ)と金でできた糸をください、と王さまに言いました。のぞみどおり材料をもらうと、はた織りには使わず、またからのままで織るふりをしつづけました。夜おそくまではたらいて、がんばっているふりをしました。
             
           "I should very much like to know how they are getting on with the cloth," thought the emperor. But he felt rather uneasy when he remembered that he who was not fit for his office could not see it. Personally, he was of opinion that he had nothing to fear, yet he thought it advisable to send somebody else first to see how matters stood. Everybody in the town knew what a remarkable quality the stuff possessed, and all were anxious to see how bad or stupid their neighbours were.                     
 しばらくすると王さまは、ほんとうに仕事がはかどっているのか知りたくなってきました。自分が見に行ってたしかめてもいいのですが、もし布が見えなかったらどうしようと思いました。自分はバカだということになるのですから。でも王さまは王さまです。何よりも強いのですから、こんな布にこわがることはありません。でもやっぱり、自分が行く気にはなれませんでした。そこで、王さまは自分が行く前に、けらいをだれか一人行かせることにしました。けらいに布がどうなっているかを教えてもらおうというのです。このころには町の人はみんな、王さまが作らせている布がめずらしい布だということを知っていました。だから、みんなは近所の人がどんなにバカなのかとても知りたくなっていました。
 "I shall send my honest old minister to the weavers," thought the emperor. "He can judge best how the stuff looks, for he is intelligent, and nobody understands his office better than he."           
 そこで王さまは、けらいの中でも正直者で通っている年よりの大臣を向かわせることにしました。この大臣はとても頭がよいので、布をきっと見ることができるだろうと思ったからです。向かわせるのにこれほどぴったりの人はいません。
             
           The good old minister went into the room where the swindlers sat before the empty looms. "Heaven preserve us!" he thought, and opened his eyes wide, "I cannot see anything at all," but he did not say so. Both swindlers requested him to come near, and asked him if he did not admire the exquisite pattern and the beautiful colours, pointing to the empty looms. The poor old minister tried his very best, but he could see nothing, for there was nothing to be seen. "Oh dear," he thought, "can I be so stupid? I should never have thought so, and nobody must know it! Is it possible that I am not fit for my office? No, no, I cannot say that I was unable to see the cloth."                   
 人のよい年よりの大臣は王さまに言われて、さぎ師の家へ向かいました。さぎ師がからのはた織り機で仕事をしている部屋に入りました。「神さま、助けてください!」といのりながら、両目を大きく見開きました。けれども、何も見えません。はた織り機には何もないのです。「ど、どういうことじゃ!?」と思わず口に出しそうになりましたが、しませんでした。そのとき、「大臣さん、」とさぎ師が声をかけました。「どうです? もっと近づいてよく見てください。このもよう、いろいろな技術が使われていてすごいですし、この色合いだって美しくて、思わずうなってしまいそうでしょう?」さぎ師はそう言って、からのはた織り機をゆびさしました。大臣はなんとかして布を見ようとしましたが、どうやっても見えません。だって、そこにはほんとうに何もないんですから。「大変なことじゃ。」と大臣は思いました。自分はバカなのだろうか、と首をかしげました。でもそう思いたくありませんでした。大臣はまわりを見まわしました。二人のさぎ師がいるだけです。よいことに、まだ自分が布が見えない、ということを誰も気がついていません。『見えない』、と言わなければ誰も気づかないのですから。
             
           "Now, have you got nothing to say?" said one of the swindlers, while he pretended to be busily weaving.                     
 「あのぅ、どうして何もおっしゃらないんですか?」と、さぎ師の片われがたずねました。もう一人のさぎ師はからのはた織り機でいっしょうけんめい働くふりをしています。
             
           "Oh, it is very pretty, exceedingly beautiful," replied the old minister looking through his glasses. "What a beautiful pattern, what brilliant colours! I shall tell the emperor that I like the cloth very much."                     
 急に言われて、大臣はあわてました。「あ……ふぅん。とてもきれいで、たいそう美しいもんじゃなぁ。」大臣はメガネを動かして、何もないはた織り機をじっくり見ました。「なんとみごとな柄(がら)じゃ。それにこの色のあざやかなこと! このことを王さまに言えば、王さまもきっとお気にめすじゃろうなぁ。」
             
           "We are pleased to hear that," said the two weavers, and described to him the colours and explained the curious pattern. The old minister listened attentively, that he might relate to the emperor what they said; and so he did.                     
 「その言葉を聞けて、ありがたきしあわせです。」二人のさぎ師が口をそろえて言いました。「では、王さまにもっと知っていただくために、布についてこまかく説明(せつめい)いたしましょう。」さぎ師はからのはた織り機の前でしゃべりはじめました。色がこいとかうすいとか、もようがうねうねしてるとか、まっすぐとか。ことこまやかに言うのです。大臣はその説明を一言ももらさず聞き入っていました。なぜなら、大臣は王さまにもう一度同じことをまちがえずに言わなければならないからです。もしここで一言でもまちがえようものなら、あとで王さまがほんものを見たときに大臣には布が『見えなかった』と気づいてしまいます。だから大臣は聞いたことをそのまま王さまに言いました。
             
           Now the swindlers asked for more money, silk and gold-cloth, which they required for weaving. They kept everything for themselves, and not a thread came near the loom, but they continued, as hitherto, to work at the empty looms.                     
 大臣が帰るとき、さぎ師たちはもっと金の糸や絹がほしいと言いました。布を織るためにひつようだと言うので、すぐに持ってこさせました。でもやはり、さぎ師たちは金の糸や絹を一本も使わないでみんな自分の物にしてしまいました。そして何もないからのはた織り機でずっと織るふりをつづけました。
             
           Soon afterwards the emperor sent another honest courtier to the weavers to see how they were getting on, and if the cloth was nearly finished. Like the old minister, he looked and looked but could see nothing, as there was nothing to be seen.            
 それからまもなく、王さまはもう一人さぎ師のところに向かわせました。これも根のまっすぐな役人でした。役人の仕事は、布のはかどりぐあいと完成する日にちをしらべてくることでした。しかし、役人も大臣と同じように、見えたのはからっぽのはた織り機だけでした。なんどもなんども見ましたが、どうしてもからっぽにしか見えませんでした。
 "Is it not a beautiful piece of cloth?" asked the two swindlers, showing and explaining the magnificent pattern, which, however, did not exist.                     
 「どうなされたのですか? もしかして、お気にめさないとか……」二人のさぎ師は不安そうにたずねました。そして何もないはずの布をまるであるかのように見せびらかせました。「ほら、この王さまのえらさにぴったりのこのもよう、……どうでしょうか?」さぎ師は言いますが、布はどこにもありません。
             
           "I am not stupid," said the man. "It is therefore my good appointment for which I am not fit. It is very strange, but I must not let any one know it;" and he praised the cloth, which he did not see, and expressed his joy at the beautiful colours and the fine pattern. "It is very excellent," he said to the emperor.                 
 役人は思いました。「わたしはバカではない。自分にふさわしくない仕事をしているだけだ。そうだ、バカではない。おそらく……この布はとてもふうがわりなのだろう。しかし、このことを、だれにも知られてはならないのだ……」役人は少し考えてから、言いました。見えない布をあたかも見えているように。「たいへんみごとな布だ! 色合いも美しいし……柄(がら)ももうしぶんない。わたしはこんな布を見られてとてもうれしいよ!」そうして城に帰った役人は王さまに向かってこう言いました。「たいへんけっこうなものでした。」
             
           Everybody in the whole town talked about the precious cloth. At last the emperor wished to see it himself, while it was still on the loom. With a number of courtiers, including the two who had already been there, he went to the two clever swindlers, who now worked as hard as they could, but without using any thread.                   
 街はそのめずらしい布のうわさでもちきりでした。うわさがどんどんもり上がっていくうちに、王さまも自分で見てみたくなってきました。日に日にその思いは強くなるのですが、いっこうに布は完成(かんせい)しませんでした。王さまはいてもたってもいられなくなって、たくさんの役人をつれて、二人のずるがしこいさぎ師の仕事場に向かいました。つれていった役人の中には、前に布を見に行った二人もふくまれていました。さぎ師の仕事場につくと、二人はいっしょうけんめいに働いているふりをしていました。糸を一本も使わないで、まじめに仕事をしているふりをしていました。
             
           "Is it not magnificent?" said the two old statesmen who had been there before. "Your Majesty must admire the colours and the pattern." And then they pointed to the empty looms, for they imagined the others could see the cloth.             
 「さぁどうです、王さまにぴったりな、たいそうりっぱな布でしょう?」前に来たことのある二人の役人がみんなに向かって言いました。「王さま、王さまならこの布の色合い、柄(がら)をお気にめしますでしょう?」そして、二人はからのはた織り機をゆびさしました。二人は他のみんなには布が見えると思っていたからです。
             
           "What is this?" thought the emperor, "I do not see anything at all. That is terrible! Am I stupid? Am I unfit to be emperor? That would indeed be the most dreadful thing that could happen to me."               
 でも…… 「なんだこれは? 何もないじゃないか。」と、王さまは思いました。王さまは自分がバカかもしれないと思うと、だんだんこわくなってきました。また、王さまにふさわしくないかと考えると、おそろしくもなってきました。王さまのいちばんおそれていたことでした。王さまが王さまでなくなるなんて、たえられなかったのです。
             
           "Really," he said, turning to the weavers, "your cloth has our most gracious approval;" and nodding contentedly he looked at the empty loom, for he did not like to say that he saw nothing. All his attendants, who were with him, looked and looked, and although they could not see anything more than the others, they said, like the emperor, "It is very beautiful." And all advised him to wear the new magnificent clothes at a great procession which was soon to take place. "It is magnificent, beautiful, excellent," one heard them say; everybody seemed to be delighted, and the emperor appointed the two swindlers "Imperial Court weavers."                  
 だから、王さまはさぎ師たちを見て言いました。「まさしくそうであるな。この布がすばらしいのは、わたしもみとめるところであるぞ。」王さまはまんぞくそうにうなずいて、からっぽのはた織り機に目を向けました。何も見えないということを知られたくなかったので、からっぽでも、布があるかのように王さまは見つめました。同じように、王さまがつれてきた役人たちも見つめました。王さまが見ているよりももっと見ようとしました。でもやっぱり、何も見えてはいませんでした。「これは美しい、美しい。」役人たちは口々に言いました。「王さま、この布で作ったりっぱな服を、ちかぢか行われる行進パレードのときにおめしになってはどうでしょう。」と、誰かが王さまに言いました。そのあと、みんなが「これは王さまにふさわしい美しさだ!」とほめるものですから、王さまも役人たちもうれしくなって、大さんせいでした。そして王さまは、二人のさぎ師を『王国とくべつはた織り士』と呼ばせることにしました。
 The whole night previous to the day on which the procession was to take place, the swindlers pretended to work, and burned more than sixteen candles. People should see that they were busy to finish the emperor's new suit. They pretended to take the cloth from the loom, and worked about in the air with big scissors, and sewed with needles without thread, and said at last: "The emperor's new suit is ready now."                     
 パレードの行われる前日の晩のこと、さぎ師たちは働いているように見せかけようと、十六本ものロウソクをともしていました。人々は家の外からそのようすを見て、王さまの新しい服を仕上げるのにいそがしいんだ、と思わずにはいられませんでした。さぎ師はまず布をはた織り機からはずすふりをしました。そしてハサミで切るまねをして、糸のない針(はり)でぬい、服を完成(かんせい)させました。「たった今、王さまの新しい服ができあがったぞ!」
             
           The emperor and all his barons then came to the hall; the swindlers held their arms up as if they held something in their hands and said: "These are the trousers!" "This is the coat!" and "Here is the cloak!" and so on. "They are all as light as a cobweb, and one must feel as if one had nothing at all upon the body; but that is just the beauty of them."                         
 王さまと大臣全員が大広間に集まりました。さぎ師はあたかも手の中に服があるように、両手を挙げてひとつひとつ見せびらかせました。「まずズボンです!」「そして上着に!」「最後にマントです!」さぎ師は言葉をまくしたてました。「これらの服はクモの巣と同じくらいかるくできあがっております。何も身につけていないように感じる方もおられるでしょうが、それがこの服がとくべつで、かちがあるといういわれなのです。」
             
           "Indeed!" said all the courtiers; but they could not see anything, for there was nothing to be seen.                        
 「まさしくその通りだ!」大臣はみんな声をそろえました。でもみんな何も見えませんでした。もともとそこには何もないんですから。
             
           "Does it please your Majesty now to graciously undress," said the swindlers, "that we may assist your Majesty in putting on the new suit before the large looking-glass?"                 
 「どうか王さま、ただいまおめしになっている服をおぬぎになって下さいませんか?」さぎ師は言いました。「よろしければ、大きなかがみの前で王さまのお着がえをお手伝いしたいのです。」
             
           The emperor undressed, and the swindlers pretended to put the new suit upon him, one piece after another; and the emperor looked at himself in the glass from every side.               
 王さまはさっそく服をぬぎました。二人のさぎ師はあれやこれやと新しい服を着つけるふりをしました。着つけおわると、王さまはあちこちからかがみにうつる自分を見ました。
             
           "How well they look! How well they fit!" said all. "What a beautiful pattern! What fine colours! That is a magnificent suit of clothes!"              
 「何と美しい ……よくおにあいです」その場にいただれもがそう言いました。「この世のものとは思えなく美しい柄(がら)、言いあらわしようのない色合い、すばらしい、りっぱな服だ!」と、みんなほめたたえるのでした。
             
           The master of the ceremonies announced that the bearers of the canopy, which was to be carried in the procession, were ready.                   
 そのとき、パレードの進行役がやって来て、王さまに言いました。「行進パレードに使うてんがい(王さませんようの大きな日がさ)が準備(じゅんび)できました。かつぐ者たちも外でいまやいまやと待っております。」
             
           "I am ready," said the emperor. "Does not my suit fit me marvellously?" Then he turned once more to the looking-glass, that people should think he admired his garments.                  
 「うむ、わたしもしたくは終わったぞ。」と、王さまは進行役に答えました。「どうだ、この服はわたしににあってるかね?」王さまはかがみの前でくるっと回ってみせました。なぜなら王さまは自分の服に見とれているふりをしなければならなかったのですから。
             
           The chamberlains, who were to carry the train, stretched their hands to the ground as if they lifted up a train, and pretended to hold something in their hands; they did not like people to know that they could not see anything.                   
 お付きのめしつかいはありもしない服のすそを持たなければなりませんでした。地面に両手をのばして、何かをかかえているようなふりをしました。やはりめしつかいも何も見えていないことを知られたくなかったので、すそを持ち上げているようなまねをしているのでした。
             
           The emperor marched in the procession under the beautiful canopy, and all who saw him in the street and out of the windows exclaimed: "Indeed, the emperor's new suit is incomparable! What a long train he has! How well it fits him!" Nobody wished to let others know he saw nothing, for then he would have been unfit for his office or too stupid. Never emperor's clothes were more admired.                     
 王さまはきらびやかなてんがいの下、どうどうと行進していました。人々は通りやまどから王さまを見ていて、みんなこんなふうにさけんでいました。「ひゃぁ、新しい王さまの服はなんてめずらしいんでしょう! それにあの長いすそと言ったら! 本当によくおにあいだこと!」だれも自分が見えないと言うことを気づかれないようにしていました。自分は今の仕事にふさわしくないだとか、バカだとかいうことを知られたくなかったのです。ですから、今までこれほどひょうばんのいい服はありませんでした。
"But he has nothing on at all," said a little child at last. "Good heavens! listen to the voice of an innocent child," said the father, and one whispered to the other what the child had said. "But he has nothing on at all," cried at last the whole people. That made a deep impression upon the emperor, for it seemed to him that they were right; but he thought to himself, "Now I must bear up to the end." And the chamberlains walked with still greater dignity, as if they carried the train which did not exist.                     
 「でも、王さま、はだかだよ。」とつぜん、小さな子どもが王さまに向かって言いました。「王さま、はだかだよ。」「……なんてこった! ちょっと聞いておくれ、むじゃきな子どもの言うことなんだ。」横にいたそのこの父親が、子どもの言うことを聞いてさけびました。そして人づたいに子どもの言った言葉がどんどん、ひそひそとつたわっていきました。「王さまははだかだぞ!」ついに一人残らず、こうさけぶようになってしまいました。王さまは大弱りでした。王さまだってみんなの言うことが正しいと思ったからです。でも、「いまさら行進パレードをやめるわけにはいかない。」と思ったので、そのまま、今まで以上にもったいぶって歩きました。めしつかいはしかたなく、ありもしないすそを持ちつづけて王さまのあとを歩いていきましたとさ。
             
        
THE END               

おわり